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8-9 朱莉の願い 1

last update Huling Na-update: 2025-05-31 17:02:34

 ハンドルを握りながら琢磨は朱莉に尋ねた。

「朱莉さん、もう以前の億ションは引っ越ししたんだって?」

「はい、そうです。まあ……色々ありましたから」

朱莉は琢磨をチラリとみる。

「例えば京極のこととか?」

「ええ、そうですね。初めは京極さんがあの億ションに隠しカメラを仕掛けていたのが原因で引っ越しを考えたんですけど、明日香さんも出て行ってしまいましたし……」

「知ってるよ。その話は。今、明日香ちゃんは『ホテル・ハイネスト』の総支配人と同棲しているんだろう?」

「え? 九条さん。どうしてその話を知ってるんですか?」

朱莉は驚いて琢磨の顔を見た。

「ああ、航から聞いたんだ。どうも航は京極から詳しい話を聞かされないまま『ホテル・ハイネスト』の総支配人について調べてきてくれって言われたらしい」

「京極さんが……」

朱莉は京極があちこちの人間の身元調査に手を広げているかを改めて知り、今更ながら京極と言う人間が怖くなった。だが、その京極ももはや日本にはいない。姫宮の話だとオーストラリアへ移住したらしい。

「京極さんは……もう日本へ戻ってはこないつもりなのでしょうか」

朱莉はポツリと呟いた。

「さあ……どうかな? あの男のことだ。またふらりと日本へ戻って来るかもしれないぞ?」

「そうですね。でも明日は姫宮さんの結婚式なのにお兄さんとして出席されないなんて姫宮さんが何だかかわいそうです。たった一人きりのお兄さんなのに……」

それを聞いて琢磨は笑みを浮かべた。

「やっぱり朱莉さんは優しいんだな。あんな男にも同情して。あれ程怖い目に遭わされてきたのに」

「確かにそうかもしれませんが、最初は本当に親切な人だったんですよ? 私が最初に飼っていた犬のマロンを引き取ってくれたし……」

「そう言えば、ネイビーはどうしてる?」

「はい、ネイビーも元気ですよ。レンちゃんがもうすこし大きくなったら一緒に遊べるといいんですけど」

朱莉は後部座席に置かれたチャイルドシートでスヤスヤと眠っている蓮を見た。

「朱莉さんは明日の二階堂社長と姫宮さんの結婚式に参加するんだろう?」

「はい、そうです。今から楽しみです。姫宮さんはとても綺麗な女性だからウェディングドレス姿きっとお似合いだろうな……」

朱莉はうっとりする。

「朱莉さん……」

(朱莉さんも綺麗だから、ウェディングドレス姿似合うだろうな。出来ればその隣に
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